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"林間の家"を通して.その5

前回に続き今回も調湿のお話。

 

前回は屋内の仕上げに関してでしたが

今回は建物そのもの、断熱材について触れたいと思います。

 

現在、木造住宅において最も主流な工法は

充填断熱と通気工法の組合せです。

 

壁内(柱と柱の間)にグラスウールなど断熱材を入れ

屋内側に気密シート貼り

また、断熱材内に生じた湿気を逃すために

屋外側に通気を確保するという工法です。

 

一定の性能を確保しつつもコストを抑えることができるのが

一番の特徴と言えます。

私の設計では以前は外張り断熱工法を採用することが多かったのですが

近年の建築材料高騰への対応と性能アップのため

この工法を採用しております。

 

グラスウールの弱点は湿気です。

なので、外側に通気を確保するのはもちろんですが

屋内側の気密シートの施工精度が肝になってきます。

施工精度が悪く、隙間が多いと、屋内や壁内で生じた湿気で

断熱材を傷めたり、カビが発生しやすい環境を作り出したりします。

断熱性能を下げ、建物の耐久性を損なう可能性を

高めてしまうということです。

 

しっかりとした施工さえすれば、

基本的には問題ないと考えておりますので

この方法を否定するつもりはありませんし

今後も採用していくと思います。

 

ただ一点どうしても気になることがあります。

それは、気密シートで包み、外と中を分断してしまうことです。

先にも書きましたが性能を上げるために必要な気密シート。

24時間稼働する換気扇をつけることで

家中に新鮮な空気が充満し

息苦しいなどということはありませんが。。。

 

建物は人にとって「第3の皮膚」という考え方があります。

(第1は身体の皮膚、第2は衣類)

人の住まう環境、その外周に「皮膚」があると考えた場合

ビニール製の呼吸をしないレインコートではなく

ウールのジャケットのようなもので包まれている方が

相応しいと考えるからです。

建物も呼吸する、調湿能力があるのが望ましいと。

 

その点からも、WB工法や「KANSO」の調湿念頭においた

工法・思想に強く共感するわけです。

 

しかし、WB工法は加盟した工務店が建築するシステムであること

また、新潟では加盟工務店が少なく

意匠的にも少なからず制約があるため

新潟でWB工法を積極的に進めるにはハードルが高い。

「KANSO」は思想的には大変魅力的だが

一般的とは言い難い。 

立地条件やコスト面でのハードルが極めて高い。

 

 

そんな中、半年ほど前に出会ったのが

木質繊維系断熱材「ECOボード」でした。

 

断熱性だけでなく、蓄熱性、透湿性が高く

なお、気密シートを使わずに気密性も確保できる断熱材です。

 

原材料は木なので、循環化社会という視点においても理想的です。

 

ただ残念なのは、海外製ということ。

以前は国内でも同様な製品が生産されていましたが

需要が少ないためか、事業から撤退してしまったため

現在は国産のものがない状況です。

 

今後より多くの現場で使われることで

国内での生産が可能となれば

コストが下がるだけでなく

"木"という資源の好循環にもつながる。

社会的にも大変意義があることです。

 

この「ECOボード」は

断熱力、気密力、防火力、透湿力、遮熱力、蓄熱力、遮音力、環境力

を謳う製品となっています。

 

グラスウールなど一般的に流通している断熱材とコスト面で

大きな開きがありますので、まだまだ一般的とは言い難いですが

私個人的には"理想的"な材料であると、確信しています。

 

 

建築計画においては、様々な環境、条件のなかで進めていきますので

理想的な材料だけで計画できるわけではありません。

常に「最適な解」を求めていますので

視野の広さ、選択肢の多さは重要です。

 

"林間の家"を通して得た知識・経験により

新たな視点、選択肢を増やすことができました。

大きな節目となったプロジェクトのご縁をいただいた

施主Kさん、電磁波測定士の仲間には感謝しかありません。

 

 

"林間の家"を通して <終>

 

 

△9月末に着工する新築住宅『土間と中庭と』(新潟市)

   断熱材に「ECOボード」を採用します。